夏へ向けて「省エネ!?」繰り返される電力需給ひっ迫のニュース・・・いったいどうなってるの?

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※この記事は、リンクスの投稿記事を転載しています。

昨年来、電力の需給ひっ迫の話題が繰り返されてますよね。
巷を賑わせた最近の関連ニュースで言うと、昨年の冬から今年(2022年)にかけて「過去10年で最も厳しい見通し」と経産省が予測したニュース。
今年3月21日にも東京電力管内と東北電力管内に政府が「電力需給ひっ迫警報」を初めて出し、東京電力管内では電力の使用率が100%を超えて、数字のうえでは需要が供給を上回ってしまう異常事態まで起きたニュース。
そしてつい先日(6月10日)、資源エネルギー庁が2022年夏季の省エネの取り組みを決定したニュース。

いったいなぜ、こんなことが繰り返されているのか?

2022年3月 国営放送の一場面

実は電気エネルギーの需給のひっ迫が繰り返される背景には構造的な課題があることをご存知ですか。

その1つが『火力発電所の供給力の低下』です。

世界的なSDGs(持続可能な開発目標)の拡がりにより、日本も「脱炭素社会」実現への施策がたくさん進行しています。その主役を担っているのが、火力から再生可能エネルギーへの主力エネルギー源の転換です。

つまり、電力をつくる際に二酸化炭素ができる火力ではなく、太陽光・風力・バイオマスなどの再生可能エネルギーでつくられた電力を国で使われる電力の主軸に換えていこうということです。

政府は、2030年度には温室効果ガスの排出量を2013年度と比べて46パーセント削減し、2050年に脱炭素を実現する目標を掲げています。温室効果ガスを出さない再生可能エネルギーへの転換が必要で、中でもすぐにでも増やすことができると注目されているのが太陽光発電です。実際、日本の太陽光発電の累計の導入量はこの10年で20倍以上に増えています。

しかし、太陽光発電は天候によって発電量が大きく左右されます。特に、曇りの日が多い冬には発電量が小さくなってしまうこともあります。 電力は、需要にあわせ全体の供給量を調整してバランスを取る必要があるので、再生可能エネルギーの発電量にあわせて、火力発電の量を増やしたり減らしたりすることで、全体の供給量を調整することになります。その結果、採算が悪化してしまうのです。

電力会社も民間会社ですから効率の悪い老朽化した火力発電所の運転を取りやめる動きが相次いでいます。

そんなわけで、いざというときに電力の供給余力がないということになってしまうんですね。

冒頭の「なんで最近はこんなに電力需給ひっ迫のニュースが繰り返されるの?」という疑問の答えは、火力から再エネへの主力電源の転換期となる今後数年は、電力逼迫の危機に陥る可能性があるということになります。ちなみに、経産省は火力発電について、2016年から2030年までの間に、およそ1853万KW(大型の発電所およそ18基分)供給量が落ちるとしています。

では、先日のニュースを少し詳しくみてみましょう。

資源エネルギー庁は6月10日、電力需給が極めて厳しい状況にあることを受けて、家庭や産業界などの需要側での対応を着実に進めてもらうために、2022年度夏季の省エネルギーの取り組みを発表しました。

中身を見ると、「各方面に省エネ・節電の取り組みを呼びかける+各種コンテンツを用いて省エネ・節電についての周知等を行う」ことにより、国と地方公共団体、事業者、国民が一体となった省エネルギーの取り組みをより一層推進する・・・となってます。

また、国民に対しても、「省エネルギー・脱炭素社会の構築に貢献する製品・サービス・ライフスタイルを選ぶ「COOL CHOICE」により、具体的な行動変容を促進し、旧式の製品等から省エネ製品等への切り替えや、クールビズ実施率の向上などを進めていく」となってます。

施策として、「みんなでおうち快適化チャレンジ」キャンペーンを実施し、新築住宅のZEH(ネット・ゼロ・エ ネルギー・ハウス)化・既存住宅の断熱リフォームと省エネ家電への買換えを促進する。また、移動の脱炭素化を目指して、省エネに資する電気自動車(EV)、プラグイン ハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)と再生可能エネルギー電力を組み合わせた「ゼロカーボン・ドライブ(略称:ゼロドラ)」を呼びかけるとともに、ゼロドラの実践を後押しする取り組みを進めるそうです。

※詳しくお知りになりたい方はこちらへ「経済産業省資源エネルギー庁ホームページ」

もちろん政府は電力需給ひっ迫に備えて、休止している火力発電所の再稼働を促すなどの対策を行っています。例えば、老朽化により長期計画停止をしていた火力発電所を期間限定で運転を再開。修繕をしながら、再稼働に備えるなど。

一方で、火力発電に対する欧州の目はとても厳しいものがあります。気候変動問題を話し合う国連の会議「COP26」では、化石燃料使用への批判はさらに強まりました。こうした情勢は、火力発電所や、発電の燃料となる石炭・石油やLNG(=液化天然ガス)調達への投資は世界的な滞りを見せています。

さらに、火力発電に使う燃料価格の高騰が追い打ちをかけています。従来のガスより温室効果ガスの排出量が少ないLNGを、中国が「爆買い」しています。今年は、ヨーロッパではLNGが不足し、電力価格が暴騰している。

もともと構造的に脆弱だった安定供給体制に加えて、ウクライナ危機でさらに不安定になるおそれもあります。

脱炭素にむけて、世界は大きく舵を切りましたが、引き換えに「安定供給の不安」つまり、停電が多発し経済に影響が出るかもしれないというリスクを抱えることになりました。日本も安価な電力の安定供給と、脱炭素の「両立」という重い課題が突きつけられています。政府は昨年、新たなエネルギー基本計画を策定しましたが、その後ウクライナ危機という予期せぬ事態が起きて、エネルギーを巡る情勢は激変しました。

今後は再エネの導入を加速することが必要なようです。
再エネは国産エネルギーで、自給率アップにもつながります。現状まだ20%で、2030年の政府目標の36~38%達成にはあと8年で倍近く増やさなければいけません。
ただこれまで太陽光に偏りすぎた点を教訓に、風力や地熱にも力を入れてバランスよく拡大し、発電量の変動を抑えていく必要もありそうです。
それに加えて発電した電気をためる蓄電池のコスト低減など、再エネの弱点を補強する技術開発を急がなければいけません。

電力の安定供給と脱炭素を両立させる戦略はどうあるべきか・・・という問題は、当面の世界的な関心事であり続けそうです。

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